高盛土の防災(地震・豪雨)対策

最近の高盛土の災害特性
1978年の宮城県沖地震より、沢や谷を埋めた谷埋め盛土が、地震に弱いことが指摘されてきました。1995年兵庫県南部地震においては、谷を埋めた大規模盛土造成地の滑動・崩落・変状が多数報告され、谷埋め盛土が地震時に弱いことが明らかになりました。
2004年中越地震、2007年能登半島地震、2007年中越沖地震、2008年岩手・宮城内陸地震では、山間部の自然斜面や盛土の崩壊が多数報告され、特に山岳部沢地形における谷埋め盛土の大規模な崩壊が目立ちました。
近年発生した地震被害を受けて、谷埋め盛土の耐震補強に対する要望が高まっており、沢地形の道路谷埋め盛土の大規模地震動(レベル2地震動)に対する耐震性能の確保が求められています。


図-1.道路谷埋め盛土の被害
図-1.道路谷埋め盛土の被害
(地盤工学会「2004年新潟県中越地震震災調査報告書より)
沢地形高盛土の問題点
地震時に盛土の崩壊しやすさに影響を与える主な要因は、「地下水」と「盛土の締固め」であると言われています。沢地形は、地下水位が浅く、雨水が集まりやすい場所であるため、もともと地下水が豊富な条件下にありますが、十分に盛土を締固めたうえで地下水位排除工を行った谷埋め盛土は、大規模地震時にも崩壊しなかったという報告があります。
谷埋め盛土の滑動・崩落・変形は、震度6以上の地域に多く発生したという報告があります。過去の主な地震を見ると、マグニチュード7以上の巨大地震のうち、内陸直下型の地震は発生確率の差はあるものの、全国どこでも発生する可能性があり、谷埋め盛土の大規模地震に対する耐震性能の確保は喫緊の課題となっています。
高さ15m以上の高盛土は、崩壊した場合に周辺に与える影響が大きく、特に山岳部は急峻・狭隘な地形であるため復旧が困難です。
図-2.沢地形高盛土の地震時の崩壊
巨大地震による被害は極めて甚大で、東海・東南海・南海地震が同時に発生すれば、被害額は最大80兆円に上るとも言われています。しかし、適切な地震予防対策を行えば、対策費を含めても被害額を約1/10に抑えることが可能です。そのためには、構造物を長期にわたって安全かつ効率的に利用できるような耐震診断・対策工のシナリオが必要です。

新しい耐震設計の流れ
道路土工-盛土工指針が改訂になり、道路盛土のレベル2地震動を考慮した耐震性能照査が求められています。特に、山岳部沢地形の谷埋め盛土は復旧が困難であるため重要度1と設定され、レベル2地震時には右表の性能2が要求されることになります。
性能2では、有害な変形が発生するものの早期に復旧できることが求められており、変形を評価できる照査手法が必要です。
表-1.道路盛土の要求性能(道路土工指針より)

作用/重要度

重要度1

重要度2

常時の作用

性能1

性能1

降雨の作用

性能1

性能1

地震動の作用

レベル1地震動

性能1

性能2

レベル2地震動

性能2

性能3

性能1: 健全性を損なわず、通常の維持管理で交通機能を確保できる性能
性能2: 有害な変形が発生するが、短期の補修で機能を回復できる性能
性能3: 交通機能は喪失するが、崩壊しても周囲に甚大な影響を与えない性能
従来の円弧すべり計算に基づく安全率による照査では、すべり破壊の有無しか評価できないため、変形を算出できる変形性能照査法が必要となります。

降雨対策
豪雨によって盛土内の地下水位が設計時に想定した以上に上昇した場合、間隙水圧の上昇によりせん断強度不足となり、盛土が崩壊に至るケースもあります。
盛土内の間隙水圧の発生を抑えるためには、横ボーリングや表面排水などの排水工や集水井などの集水工を実施し、盛土内の水を速やかに盛土外に排出する対策工を実施することが効果的です。

耐震検討
沢地形高盛土の地震時の崩壊は、盛土内部で慣性力によるすべり崩壊が発生するパターンと盛土と地山の境界部分で滑動するパターンとの2つに大別されます。
盛土内部ですべり破壊が発生するパターンでは、すべり破壊とすべり土塊の滑動量を評価できるニューマーク法の適用が有効です。また、山岳部の沢地形谷埋め高盛土は、盛土形状が複雑になり、かつ盛土高が高いことから、合理的な耐震検討を実施するためには、盛土内の複雑な加速度分布を考慮できる改良型ニューマーク法を適用する必要があります。
盛土と地山の境界で滑動崩落が発生する場合には、盛土と地山の摩擦を考慮した弾塑性動的解析による変形性能照査が有効です。
盛土基礎地盤となる沢部に軟弱な砂質土層が堆積している場合には、地震時液状化の検討が必要となります。液状化判定を行ったうえで、必要に応じて弾塑性動的有効応力解析や自重変形解析による変形性能照査を行います。
盛土の三次元効果が大きいと判断される場合には、三次元化した改良型ニューマーク法や三次元安定解析を行います。
検討対象地震動は、①設計指針で規定されたスペクトル適合波、②対象地域の地盤サイト特性を考慮して想定地震動、③類似条件下にある地域の既往地震動等から適切な手法を選択して設定します。

図-3.改良型ニューマーク法の盛土応答加速度と滑動変位量の時刻歴
図-3.改良型ニューマーク法の
盛土応答加速度と滑動変位量の時刻歴

図-4.地盤構造とサイト特性を考慮した地震動設定
図-4.地盤構造とサイト特性を考慮した地震動設定

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