タイトル
 

高動的安定度の混合物に対する評価方法

1. はじめに

 ホイールトラッキング試験(以下、WT試験)は、アスファルト混合物の塑性変形抵抗性を評価するための室内試験として多くの機関で運用されている。しかし、WT試験から得られる動的安定度(以下、DS)が6,000回/mm以上の場合、WT試験の誤差範囲内で実用上有意な差はないと判断され、「舗装調査・試験法便覧」ではいかなるDSでもすべて“6000回/mm以上”と報告するように定められている。一方で、6,000回/mm以上のDSでも、DSとわだち掘れ量に高い相関が認められたとの研究成果も得られている。
 このような背景から、本WGではWT試験機を用いて、DSが6,000回/mm以上のアスファルト混合物の塑性変形抵抗性に対して有意差が得られることを目的とした新たなWT試験方法を検討した。

2. 本WGの活動フロー(H27〜31)

 本WGの活動フローを示す。文献調査の実施と各機関におけるWT試験機の機差を把握したうえで、WT試験の各試験条件(試験時間・タイヤの種類・試験温度・接地圧・走行回数)がDSに与える影響の把握、全機関のWT試験機のアンケートの実施、そして多くの機関が変更・導入しやすいWT試験条件において、様々なアスファルト混合物を用いたWT試験を実施した。

図−1 試験機の寸法

3. 得られた成果

① WT試験条件がDSに与える影響の把握

 WT試験条件がDSに与える影響を把握するために、試験条件をいくつか変更したWT試験を実施した。
 DSに対して最も影響を与えた試験条件は試験温度であった。次点は、タイヤの種類をソリッドタイヤから鉄輪に変更した試験条件、そして走行速度、接地圧の順であった。試験時間の延長によるDS算出方法では、DSの低下はほとんど見られなかったが、汎用性は高いと考えられ、またd60-d30は標準のd60-d45よりも2倍程度の変形量の差となり、この結果は既往文献とも一致する。

表-1 WT試験条件がDSに与える影響

② WT試験機の仕様アンケート

 TPT全機関に依頼したWT試験機のアンケート結果を示す。 アンケートの実施から、75のWT試験機の仕様が収集できた。アンケート結果から載荷荷重には上限があり、ほとんどが標準の接地圧0.63MPa以下しか対応できないことが分かった。
 また、変位計のほとんどは、試験可能温度範囲が60℃以下である尾崎製作所のD−50シリーズを採用されていた。尾崎製作所の技術部への電話アンケートを実施した結果、尾崎製作所の技術担当曰く、「D−50シリーズのほとんどは半導体業界で使用されおり、半導体関連の試験ではD−50シリーズが保証している試験温度範囲外での使用がないため、今後、D−50シリーズの使用可能温度範囲の拡大は考えていない。なお、道路材料の試験機の多くにD−50シリーズが使われているのは承知している」との見解が得られ、DSに最も影響を及ぼす試験温度の変更は難しいと判断した。一方、タイヤの種類と走行回数の変更、そして僅かな載荷荷重の増加は多くの機関で対応できることがわかった。

表−2 WT試験機のアンケート結果

③ 試験条件を変更したWT試験結果

 いくつかのアスファルト混合物を用い、標準のWT試験と試験条件を変えたWT試験(以下、検討WT試験)とのDSの関係を以下に示す。これより、得られた回帰式の決定係数は0.8以上であり、相関性は高いこと、また変形量が大きくなり、DSは低下するといえる。
図−2 標準WTとWT試験条件を変えたWT試験との関係

4.本研究によって提案された試験方法

 以上の結果を踏まえ、本WGの最終目的であった舗装調査・試験法便覧のホイールトラッキング試験方法の解説に加筆した。